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Fuji Sankei Business i on the Web 知 的 財 産 サ ロ ン:『フジサンケイ ビジネスアイ』オピニオン面「知的財産サロン」毎週金曜日掲載

2004/4/16紙面掲載
あなたもなれる? 発明長者[7] 特許評価の考え方
特許法改正で研究者にも交渉力が必要に
契約内容を事前合意の上で明示
(「知財情報&戦略システム」中岡浩)

■権利行使に求められる研究者の判断力■

 職務発明の対価を企業へ請求する権利が明白にあったとして、自分ならばどういう行動をとるだろうかを想像してみよう。
何も申し立てないで定年まで悶々と過ごしているか、それとも自分の特許が企業にどれだけ貢献したかに独り喜びを見つけているか、まあまあの地位・待遇を良しとしているか、あるいは相当な対価を企業へ請求しているだろうか。
最も合理的な判断を誰もがするとは限らない。最後は、その人の決断によって決まるのである。
研究者は、職務発明を成して企業へ特許の権利を移転した場合、企業の報償規定によって報償を得るが、その金額が妥当でない場合、特許法によって、相当の対価を得る権利を主張し、場合によっては損害賠償を請求できる。相当の対価とは、当該特許を使って得られた利益のうち発明者が貢献した割合の額である。また特許法は民法など一般法に優先する特別法であり、法的効力は強い。
 このように研究者は権利をしっかり手にしているはずだが、実際問題、この権利をどう行使するのかは、研究者の判断力に委ねられている。
もしも企業に対して相当の対価について切り出したならば、自分の今後の処遇に影響することは当然覚悟しなくてはいけない。企業がそうそう素直に「はい分りました」と言うはずもない。こじれれば、左遷や一生窓際になる恐れもある。場合によっては解雇もあろう。
 その上、日本の企業では、ことの如何を問わず、職場で波風を立てたばかりに同僚から総スカンを喰う可能性もある。社員(労働者)として就業規則や勤務規定に拘束され、他の社員がそれを遵守している中で、発明を成した研究者だけが特別な権利主張をすることに対する反感や不満が、巻き起こるかもしれない。
 交渉には時間も労力も費用もかかる。通常一年や二年はかかる。この間、職場でのいざこざに耐えられるだろうか。今実際に起こっている職務発明訴訟は、研究者が退職してから訴えているケースが多いのもうなずけよう。
 しかし停年まで待っていたなら、対価を請求できる時期を逸する。特許法には時効についての条文がないので、特許の対価請求権は民法上の一般債権と同じであり、消滅時効は十年間である。
特許が守られる期間は二十年間であるといっても、IT関連のような技術革新度の早い分野の特許なら、収益化可能期間は数年間かもしれない。権利主張するならば、判断を躊躇っている暇はないのだが、日本人の性格は一般に争いごとが苦手なのである。


■個別契約の内容は自由に設定できる■

では訴訟社会といわれる米国では、研究者はどう対応しているのだろう。
米国の研究者は、米国では日本のような職務発明訴訟は起こりえないと口をそろえる。この理由は、米国では企業と研究者が雇用契約の時に、個別に契約を結ぶ習慣があるからだという。雇用契約書に職務中の発明は企業が権利者になることが明記されていたならば、双方合意があるとみなされ、はなから争いになりえないのである。
問題は、日本の特許法でいう相当の対価をどう算定するかということになるが、個別契約の場合、相当の対価ではなく合意の額である。例えば一億円相当の対価があると評価できる特許であっても、一万円で契約したならば、それが認められることになる。この逆もある。
対価は収益等に対する料率でもよい。対価算出の方法や支払方法も最初に取り決めることができる。個別契約の内容は当事者間で自由に設定できるのである。
また、米国の場合は発明の対価を事前に給与に盛り込むのも一般的だ。開発環境や地位、休暇、ストックオプションを付けることも、双方の合意があれば足りる。有能な研究者なら、様々な項目をより有利な条件で盛り込めるだろう。
個別契約の利点は、何をすれば何が保障されるかが明示されるという点である。逆に欠点は、研究者にも交渉力が必要になるという点である。
 現在、日本では特許法を改正して、このような個別契約を日本においても普及させたらどうかという案が出ている。
これは、事前に個別契約で合意を得ておけば、相当の対価に優先させることもできる、というような内容だ。企業にとっては、現在のような職務発明訴訟リスクを回避するためには積極的に個別契約の導入を進めた方が得策という考え方もできる。
逆に研究者から見れば、企業と丁々発止とわたりあい、契約まで持っていける交渉力があるのか不安がある。契約社会の米国ならば、研究者自身の権利意識が高いし、弁護士など代理人も多いが、日本では個別契約の土壌も経験も皆無に近い。


■日本的な特許制度を検討していた米国■

個別契約では、契約内容は企業と研究者の力関係に依拠する。有力な研究者となれば、まるでメジャーリーガーのように代理人を置いて交渉するようになるかもしれない。
 また個別契約が普及すれば、外国人研究者の受け入れはし易くなると思われる。研究開発の場が国際化する引き金にもなるかもしれない。企業は有能な研究者獲得の選択肢が広がり、研究者は外国人研究者との競争に巻き込まれよう。
 面白い話がある。米国では二十〜三十年程前に日本の特許法三五条のような規定を設ける動きがあった。研究者の得るべき相当の対価を受ける権利を強化することで、研究者のやる気を促し、当時落ち込んでいた国際的な技術競争力を高めようというものであった。
しかし、発明者だけの報償を強化することが職場の安定性や公平性を揺るがしたり、そのようなメリットが得られる職種に人気が集中したりして、それ以外の担い手がいなくなるのではという懸念から、多くの反対意見が出て実現しなかった。
 当時の米国から見れば日本型制度は魅力的だったわけだ。ならば今、日本でも現行制度で行く方が研究開発の競争力確保のためには有効なはずで、今さら米国型を取り入れる必要はないはずだ。
しかし、どんなに制度が変わっても、研究者が権利を実際に行使しないなら、何の意味もない。現状維持でも、また特許法が改正されても、一番の問題は研究者の判断力にあるのかもしれない。

(「知財情報&戦略システム」中岡浩)


(ミニ用語解説)

◇特許法三五条改正◇
経済からの要望により今国会での特許法改正のひとつとして、特許法三五条にある発明者が受けるべき職務発明に係る相当の対価の決定方法について、企業と発明者の間で事前に話し合い、合理的な手続きの元に合意があれば、これを認めようというもの。当事者間の手続きとして、個別契約の活用が注目されている。個別契約がある場合、発明者の側から発明の対価を追加で請求することがしにくくなるため、企業にとっては訴訟によって莫大な報奨金を支払わされるというリスクを現在よりは少なくできる。



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